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第3回「自分の仕事」を考える3日間

奈良県立図書情報館で行われた3年間にわたって開催された「自分の仕事」を考える3日間というイベントの最終回に参加してきました。このイベントは、働き方研究家 西村 佳哲 さんの「自分の仕事をつくる」(ちくま文庫)という本がきっかけで生まれたイベントです。

「自分の仕事」を考える3日間

第三回「自分の仕事」を考える3日間

今回は3年にわたるこのイベントの最終回でした。
あらためて同じような体験が難しい素敵なイベントだと思う。


私が参加したのは初日と3日目。

<プログラム>
1月8日(土)
広瀬 敏道さん(ホールアース自然学校 創設者)
坂口 恭平さん(作家、建築家、「0円ハウス」著者)
川口 有美子さん(アドボカシー、「逝かない身体」著者)

1月9日(月)
鈴木 昭男さん(サウンドアーティスト)
山本 ふみこさん(主婦、随筆家)
中村 好文さん(建築家)

1月10日(月)
皆川 明さん(ミナ ペルホネン代表、デザイナー)
伊藤 ガビンさん(編集者、ディレクター)

ファシリテーター : 西村佳哲さん
主催 : 奈良県立情報図書館
奈良県立図書情報館「自分の仕事」を考える3日間



このイベントの特徴はその進行のしかたにあります。
ワークショップ形式にちかい進行はファシリテーターの西村 佳哲さんのもと、トークゲストによる2時間半の話しを3構成に区切りその区切りに15分ずつ合計45分も周りの見知らぬ人とどう思ったかを話すといったもの。

その際、となりに座ってる人は自分とはまったく違うところに関心をもっていたりする。その人に自分の感想をわかるように説明する緊張感がとても刺激的です。

<進行の特徴>
1.ゲストの事前インタビュー記事を黙読する(5分)
→ 参加者が3人のグループになり感想、意見交換。

2.ゲストのはなしを聴く。(30分)
→ おなじグループでふたたび。

3.西村さんによるゲストインタビュー(20分)
→ さっきとは違う2人のグループで。

4.参加者からの質問(30分)


テーマはゲストが

「どんなふうに仕事をしてきたか?」

「仕事のうえで大切にしていること」

以下、私の感想です。

このイベントとの出会いは、2009年の第1回「自分の仕事」を考える3日間。

3年間にわたり参加させていただいたが、第1回めは自分がこの仕事を独立した年とちょうど重なり、ゲストのお話しやイベント自体を真正面から体当たりで受け止めてしまって、とにかく衝撃的だった。

それはなんだか重い鉛が胃に溜るような感覚。あくまで私がそう受け取ってしまった。
そして正直この数年は気持ちがけっこうしんどいところがずっとあった。

参加される方々の意識も回を重ねるにつれどんどん高まってるように思うし、また、途中に参加者どうしがトークゲストの話しの内容をもとに意見交換する時間がもうけられてるのですが、その話しの盛り上がりや話題の掘り下げ方が年々に成熟されてて有意義なものになってた気がする。

これはきっと西村さんの目指されてるところに、いまの時代が持ってる気持ちのほうが徐々に追いついてきてるからなのかもしれない。

昨年度の内容は書籍でまとめられて販売されている。
「みんな、どんなふうに働いて生きてゆくの?」2010年のアーカイブ。
(今回の内容も秋頃に発刊されるとのこと。)

けれども、しかし、昨年の内容を書籍で読み返していてもまた違う感覚がする。




場がつくりだす空気感

このイベントの醍醐味はフォーラムでのトークゲスト、西村さん、運営者の方々、参加者が共同で生みだす、他にはない”場の空気”なのだと思う。やっぱりこのイベントは”ライブ”そのものだったんだなと思う。”ライブ「感」”ではなくて。

今回も、もちろん魅力的なトークゲストの方々のお話に興味が高まりますが、そのなかでも私は進行役で、ファシリテーションをされてる西村さんの言葉や場の空気感の作り方、振る舞いに最も関心があった。それは昨年に京都精華大学で主催された西村さん主催のインタビュー講座を受講した流れの影響もある。

人と人とが面とむかったときに生まれる場の空気感。
それはなにげない日常会話もそうだし、私の仕事でいえばカメラマンと撮影される側のひと、インタビュアーとされる側のひとの関係もそう。お互いが見えない糸の端を持っていてその糸が切れない感じに引っ張り合って、”ハリ”をつくってるような感覚のコミュニケーション。

西村さんはインタビューイ (インタビューされる側) が、腹に据えてるけど、言葉にできないところを絶妙に引き出して、それを私たちが腑に落ちて納得するところまでさらに問いだされる。翻訳に近いかもしれないけどあくまでインタビューイの言葉。

またトークゲストの話しを聴いている参加者が都度話しを聴きながら心のなかで発生してるほのかな疑問、違和感も絶妙に察知しておられる。

すべて絶妙としてかいいようがない。それは技術というよりも、ナビゲーションに近いイメージ。インタビュー講座では、西村さんはそれを「一緒に同じ風景を見ながら旅してる感覚」とおっしゃってた。きっと、西村さんの態度と存在感とがつくりだす心地よい緊張感がそうさせているのだと思う。

私たちがもしその域に到達しようとするならば、それはなにか、日本の古来からある、禅や、武道、茶道などに近い感じがしてならなかった。時間をかけて繰り返し稽古を通じて自分の人格の完成をめざす、道の追求の性格も持ち合わせてるような気がしたのです。

インタビュー講座の内容もエントリーとしてまとめてみたいとずっと思っているのだが半年たったいまもまだ言葉に整理することができない。言葉に整理することで欠け落ちる”もったいなさ”が生じるようにも思うからです。




それぞれの人の『本当』に近づく

最後に西村さんと情報図書館の乾さんによる”あとがき”的なお話の場が設けられました。

そこでの西村さんの印象的なことば。
なぜ、今回でこのイベントを終了することになったのか。

「集客力もあって、楽しいと思える仕事なんだけど、いつか続けることが目的になってしまうのが怖い。続けることばかりを目的にして、本来あるべき目的を忘れてしまったら、そこに意味はなくなる。(要約)」

「(このイベントで)大事なのは、あたたかい場をつくること。それぞれの人の『本当』に近づいた時、あたたまる。それはハウルの城のカルシファーのような。その『炎』は、誰でも持っているのです。(要約)」*引用

そして坂口さんも紹介されてたカントの「啓蒙とは何か」を引用して、西村さんがいまの仕事をはじめられて苦労されてた頃に、取材先のホテルのシェフの方が西村さんにちゃんとむきあって、丁寧にあたたかい対応をしてくれた時の体験と重ねて、その時、他人をちゃんと一人の大人として認め接することの大切さと、また私たち自身が真の意味での大人になることの重要さを語っておられた。(その頃を思い出して少し言葉に詰まられていたのが印象的だった。)

カント『永遠平和のために/啓蒙とは何か 』より
「啓蒙とは何か。それは人間が、みずから招いた未成年の状態から抜けでることだ。未成年の状態とは、他人の指示を仰がなければ自分の理性を使うことができ ないということである。人間が未成年の状態にあるのは、理性がないからではなく、他人の指示を仰がないと、自分の理性を使う決意も勇気ももてないからなの だ。だから人間はみずからの責任において、未成年の状態にとどまっていることになる。こうして啓蒙の標語とでもいうべきものがあるとすれば、それは「知る 勇気をもて」ということだ。*参考

これはまだ長く咀嚼する時間が必要かもしれないが、「それあなた本心で言ってるのですか?」と問われることに近いのか。

誰かにいわされてるわけでもなく、やらされてるわけでもなく、本当に自分でそれを心の底から欲しているのか。それはONかOFFかの絶対的な答えではなくて、あくまで相対的に近しいところに常に問い続けることなのかもしれない。そしてそれが一致したときに自分も接する相手も本当に満たされた気持ちになるのだろう。

今回、ゲストの方のおはなしを聴いて自分で考えること、また、他の参加者にも聴いてみたかったことのところに、トークゲストとの自分の間にある共通した点と違う点。トークゲストと私たちの間には大きな川がありどこか向こう岸にいるような感覚はやっぱり拭えない。でもこのイベントに参加することによってその川には何本ものたくさんの橋はかけられてる感覚。なので近い。でもイベントが終わる頃にはその橋は撤去されてる感覚がこれまでの2回のイベントのあとに残る感覚だ。

トークゲストの方々に共通して、そこを突き詰めていくと自分なりに簡単だけど難しい答えにいきついた。それはなによりも「圧倒的な行動力」だと思った。そんなことは第一回のイベントに申し込む前から薄々と感じてたのは間違いない。

では、あしたから「やるぞ!」と意気込むことだろうか。きっと空回りに終わる。
そのトークゲストの方々に共通する私たちにない「圧倒的な行動力」は、これまでの2回のなかでも何度かでてきた「衝動」が、エネルギーになっている。だから迷わないのだと思う。

なぜ、それができたのですか?とゲストに尋ねてもなんとなくしかわからない気で終わってしまうのは、ゲストが持ってる「衝動」を分解して説明してくださいとお願いしてるのかもしれない。それは分かった気持になれてもありのままを取り入れることは難しいと思う。あくまでもゲストのもつ衝動の把握でしかない。

そこで、自分のなかに「衝動」を湧かせること考えたとき、西村さんの言葉にある。自分の『本当』に近づいたときのカルシファーの発動しかないのかもしれない。それには普段から自分に対しても素直な気持ちで向き合った状態での経験を積んでいくことのように思う。自分が腑に落ちる感覚を大事にする。




いまを見据える

今回はこれまでで自分のなかに、それが良いか悪いのか、イベントの受け方のコツみたいなのもできてきて、特に坂口さんのお話しを聞いて自分とは大きな行動力の差はあるものの、思考のプロセスに共通してるところがあり、それがどこか安心につながり自信に変えられそうなきがした。

皆川さんのお話しで、自分のなかの受け止め方がこの三年間でピークに達したが、また気持ちが以前のようにジタバタしはじめてた。このままこのイベントが最終回になるとちょっとまずい感じもした。けれども、その後、ガビンさんのお話しは自分の普段のニュートラルな心持ちから正しく頑張れる気にさせていただけたように思う。

坂口さんのおはなしにもあったように自分ができることの「飛距離」がある。
「いま」という場所が登山でいうところのベースキャンプで、そこからC1、C2、と山頂までルートを築いていく。このルートではまずいと思ったら、坂口さんがおっしゃるところの「バック / トゥー・ザ・フューチャー」してベースキャンプでまた登山計画を練りなおす。

この最終回は、あなたは「これでいいのだ。」という安心感をいただけたというところがとても大きい。これは皆さんももしそうなら西村さんの三年通しての文脈にお心遣いみたいなのがあるのかなぁ。西村さんにはほんとに大切なものを頂きました。

大事だと気づいたことについてまた追記していきます。